今回はイリヤ・クブシノブの画集『MOMENTARY』を解説していきます。
イリヤ・クブシノブとは?
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イリヤ・クブシノブはモスクワ出身・日本在住のイラストレーター。
モスクワではゲーム会社NARR8にてモーションコミック"Knights of the Void"のコンセプトアーティストなどを手掛ける。拠点を日本に移してからはフリーのイラストレーターとして活動。
影響を受けた作品はゲーム『すばらしきこのせかい』、漫画『イエスタデイをうたって』(冬目 景)。
高いデッサン力とそのキャラクターデザインのクオリティの高さから、現在SNSを中心に絶大な支持を受けるイラストレーターの一人です。
『MOMENTARY』の特徴
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今作『MOMENTARY』の特徴は何といっても収録作品の質の高さ。
画集によっては収められている作品のクオリティにバラつきがあることも多いのですが、今作に関しては第一作目とは思えないほどどれもレベルの高い作品ばかりです。
また今作では作品の種類ごとにチャプターが分けられており、様々な表現方法が楽しめるのも魅力です。
おそらくSNS上で見ているときよりも、イリヤ作品の幅広さを感じられる一冊ではないでしょうか。
本の構成について
今作『MOMENTARY』では大きく6つのキャプチャーに分けて作品がまとめられています。
それぞれタイトルが付いているわけではありませんが、あえて付けるとしたら次のようなものになると思います。
本の構成
①「表情」
②「ストーリー」
③「SFと少女」
④「日本の風景」
⑤「スケッチ」
⑥「イリヤ・クブシノブの世界観」
収録作品
それでは『MOMENTARY』に収録されている作品をチャプターごとに紹介していきます。
①「表情」
このチャプターのテーマは「女の子の表情」。
イリヤ・クブシノブが最も得意とするのが「女の子の表情を魅力的に描く」イラストです。
デッサン力の高さはもちろん、女の子の表情をより魅力的に見せる演出が上手いのもイリヤ作品の特徴でしょう。
立体感やデフォルメの強弱を巧みに使い分けながら、女の子が最も魅力的に映える絵を作り出しています。
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「写真」的な表現
イリヤ・クブシノブ作品ではよく写真的な表現方法が使われています。
そのひとつが「被写界深度」。
簡単に言えばフォーカスがあっている距離の範囲のことで、その距離より近すぎても遠すぎてもぼやけて見えてしまいます。
例えば次の作品の場合、フォーカスがあっている女の子の顔はクッキリしていますが、その奥にある背景や手前に伸びている右腕はぼやけています。
イリヤ作品はこの被写界深度を使い分けることで絵に写真的な要素を加えているのですが、おもしろいのがそれによって生まれる印象です。
写真っぽくなったことでよりリアルになったかと思いきや、観る側としてはどことなく消え行ってしまいそうな儚さも感じてしまいます。
この透明感が増すほど不安定な感じは何なのか?
美しくありながらも、現実と非現実のあいだに存在するような不思議な感覚こそイリヤ作品の魅力なのかもしれません。
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②「ストーリー」
2つ目のチャプターは「ストーリー」。
その名の通り物語性の強い作品が収録されています。
今作のタイトル『MOMENTARY』という名前の通り、どれも日常の「瞬間」を切り取った作品になっていて1つ目のチャプターとは違って動きのあるイラストが多いです。
またこのパートでは先ほどの「表情」のパートに比べて、フォーカスによる表現がより多彩になっています。
特にこのパートで使われているのが「動き」の演出。
ぼかし具合や逆に「ぼかさない」部分を作ることでよりメリハリのある動きを表現しています。
また「なぜフォーカスが合わせられなかったのか」まで考えるとよりストーリーに深みが出てくる演出にもなっています。
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あえて合わせない魅力
イリヤ作品の魅力は透明感やリアルさだけではありません。
次の作品はカメラ目線でもないし、儚げな透明感もない。
それなのに他の作品とは違う種類のリアルさが感じられるのはどうしてでしょう?
チャプター1で紹介したイラストはどれも美しく洗練された作品ばかりでした。それに対してこの作品は随分ぼんやりした空気が漂っています。
もしかしたらこのぼんやりした雰囲気こそリアルさなのかもしれません。
チャプター1のイラストがプロのカメラマンが撮った作品なのだとすれば、この作品は素人が旅先でとったスナップ写真。
そう考えると、不完全だからこそどことなく親しみが湧いてくるのかもしれません。
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前編まとめ
というわけで今回はイリヤ・クブシノブさんの画集『MOMENTARY』前半部分を紹介しました。
チャプター3~6は後編で紹介するので、是非見てください。
イリヤ・クブシノブ画集『MOMENTARY』レビュー(後編)
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