浮雲宇一 作品集『白昼夢』レビュー
今回紹介するのは浮雲宇一さんの作品集『白昼夢』。
作品を紹介しながら画集の特徴や浮雲宇一さんの作風について解説していきます。
浮雲宇一とは?
浮雲宇一は大阪を拠点に活動するイラストレーター。
幻想的なイラストが特徴で、小説など書籍の装画を多く手掛けています。
またコミティアなど様々なイベントにも精力的に参加しており、一次創作・二次創作ともに多くの作品を生み出し続けています。
『白昼夢』の特徴
【お知らせ】来年1月下旬、PIE Internationalさんから作品集「白昼夢」が出ることになりました。
これまで描いた絵やつくった同人誌、描き下ろし等いろいろ収録されております。どうぞよろしくお願いいたします!
書誌ページ:https://t.co/vsLhkVlU1G
Amazon:https://t.co/BXf9TAkTLA pic.twitter.com/aJMEtNPHtm— 宇一 (@kumori_ufo) December 17, 2020
この画集はみんなをイラスト沼に引きずり込むには最適すぎる一冊です。
『白昼夢』はタイトルの通りどこか現実から離れた景色と「和」の要素がミックスした世界観が特徴の画集。
このブログでも『白昼夢』と同じコミックアートの画集を多く紹介していますが、他の画集と比較してもかなりハイクオリティな一冊に仕上がっています。
本当に見れば見るほど「なんでこんなにカッコいい世界観が思いつけるんだ」といった気持ちになる画集で、一つ一つのイラストの情報量に圧倒されるんですよね。
ここではいくつか収録作品を紹介しながらこの画集の特徴について解説していきます。
作品紹介
『歳時』
吉日を重ねて
まさに画集の1ページ目に相応しいイラスト。
「吉」の文字を模したオレンジの裏地の印象的な衣装デザインなど、宇一さんらしい要素が散りばめられています。
こうした和の要素を幻想的に見せる技術が本当に巧みで、この画集でも日常の風景にファンタジーを織り交ぜた作品が多く登場します。
春の支度
どこかめでたい雰囲気のイラスト。
妖怪なのか神様なのか様々な「人外」が行き交っていて、百鬼夜行感が堪らない作品です。
みんなが同じ方向に向かって行くのではなく、それぞれの方へといそいそと歩いているのが生活感があって親近感がわいてきます。
また主線を黒だけでなく赤や緑など背景や生き物の色によって分けているのもポイント。
主線を黒から変えると柔らかい雰囲気が出て、より神様っぽさが増しています。
妖怪の造形も妖怪っぽさと可愛さのバランスが絶妙で、決して怖い感じになっていないんですよね。
このあたりに宇一さんの妖怪に対する考え方が表れているんだと思います。
『夏の門』
「夏の門」のチャプターでは美しくもどこか不思議な夏の風景が収められています。
宇一さんのイラストは動きよりも描き方でストーリーを描いているのが特徴。
夏祭りの風景だったり、ブランコに乗っている何気ないシーンを影やピントの位置などで物語性を表現しています。
また先ほどのチャプターでも描かれていましたが、妖怪などのいわゆる「人外」と呼ばれる存在がみんな生き生きとしているのが見ていて微笑ましいです。
白昼夢
今作の表紙にもなっているイラスト。
メイキングも収録されており、当初はまったく違った絵であったことが明かされています。
メイキングでも語られていますが、一見明るいように見えてどこか不安感を掻き立てられるような明るさと闇が入り混じる作品になっています。
『夢想少女』
このチャプターの扉絵になっている作品。
色調は先ほど紹介した「白昼夢」のイラストに似ていますが、こちらのイラストからは不安や寂しさと言った印象は感じられません。
色数が多く派手なイラストですが、どこか静けさも併せ持っているのが宇一さんらしいところです。
派手なBGMよりも屋上に吹き付ける風の音が聴こえてきそうな雰囲気が漂っています。
『少年少女』
ぼくとわたし
ゴミが散らばる駅のベンチで寄り添う「ぼく」と「わたし」のイラスト。
静かに床を見つめる二人と荒廃した駅の風景とのギャップが美しいんですよね。
奥で人が吹き飛ばされているのもどうでもよく感じるほど、ここに至った二人の話が気になってきます。
放課後
こちらも駅での一コマを描いたイラスト。
箒を持っているだけでちょっとファンタジーな匂いがしてきます。
何気ない描写ですが、「電車で帰るということはまだそんなに空は飛べないのかな」とか「箒がひとつしかないということは全員が飛ぶわけじゃないのかな」など色々考えてしまいます。
こういった大都会ではないけれどちょっと待てば電車が来る程度の街って、どこか生活感が漂っていていいですよね。
『CEH[A/W]』
『CEH[A/W]』は架空の箒工房「CAT'S EYE HOUSE.」のコレクションブックです。
ファッションブランドさながら季節感を取り入れた様々な箒のうイラストが収録されています。
ファンタジー世界での箒との関わり方について深く掘り下げられており、ファッションに合わせて作られた箒の数々は見ていてワクワクさせられます。
この服装はカジュアルなのに箒で空を飛んでいるっていう組み合わせがいいですよね。
煙草をくわえながら空を飛んで女の子に会いに行くってシチュエーションが絵になりますし、窓から覗く女の子の顔がしっかり見えないことで二人の親密さがより際立っています。
あと宇一さんはこうした女の子同士の親密な関係の描き方も巧いですね。
ちょっとした仕草で関係の深さを描いているので、より繊細で深い愛情が感じられる絵になっています。
さいごに
今回は浮雲宇一さんの画集『白昼夢』を紹介しました。
紹介できたのはごく一部ですが、宇一さんのイラストの雰囲気は伝わったのではないでしょうか。
装丁も非常に美しく、部屋に置いて様になる本なのでぜひ一度手に取ってみてください。
チャプターごとに紙の種類を変えていたりと、見れば見るほど込められた熱量に感動できる作品集です。