tono イラスト作品集
『Half moon』を解説
今回紹介するのはtonoさんの作品集『Half moon』です。
ファンタジックな世界観が好きな人は多いと思いますが、複雑な設定に躊躇してきた人も多いでのはないでしょうか?
tonoさんの作品集は「やさしいファンタジー」。
絵本のような世界が広がっていて、難しい設定などもないので気軽に楽しむことができます。
というわけで今回はtonoさんの作品の特徴や作品集の内容について解説していきます。
tonoとは?
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tonoは東京を拠点に活動するイラストレーター。桑沢デザイン研究所卒。
ファンタジー性の強い作品が多く、ワニやキツネが登場する絵本のような世界観の作品で人気を集めています。
『Half moon』の特徴
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『Half moon』はtonoさん初の作品集。
第一作目ということで絵本風の連作に表紙のメイキングにとイラスト集以外にもコンテンツが盛り込まれています。
構成について
今作『Half moon』の構成は以下のようになっています。
本の構成
①連作「Half moon」
②イラスト集 ”Fairy tale”
③カバーイラストメイキング
④tono インタビュー
特におすすめなのが初めに載っている連作「Half moon」。
これすごく良かったです。
tonoさんが描くイラストの良いところは、絵の背景にファンタジー性あふれる物語が感じられるところだと思います。
ただInstagramなどのSNSでは実際にストーリーが語られているわけではありません。
もちろんその分想像する余地があり、そこを考えるのが醍醐味でもあるのですが、やっぱりストーリーを読んでみたいと思うのがファンというもの。
今回はついにtonoさん自身が手掛けた物語が収録されており、それが連作「Half moon」です。
連作というと難しく感じるかもしれませんが、今回の場合は絵本だと思ってもらって間違いはないと思います。
あらすじ
主人公のアニスは海の街に暮らす人魚。
アニスは外の世界に興味があり、なんとかして陸の世界を見てみたいと思いを巡らせていました。
ある日アニスはついに陸の世界に行くことを決めます。
そんなアニスが海辺で出会ったのは釣りをしていたライオンのガスパル。
「陸に連れて行ってほしい」と頼まれたガスパルは渋りながらも、仮住まいしている魔女の家へとアニスを連れて行き―——
イラスト集 "Fairy tale"
第二部”Fairy tale”として収録されているのがtonoのイラスト集です。
イラスト集のチャプターごとのタイトルは以下の通り。
イラスト集
①ワニと少女
②魔女たちの街
③黒ヤギの執事
④花と妖精
⑤森の中へ
⑥物語の断片
それでは6つのチャプターごとに特徴を解説していこうと思います。
「ワニと少女」
おそらくSNSでtonoさんを知った人はこの作品がきっかけだった人が多いのではないでしょうか?
チャプターの名前通りワニと少女が暮らしているシーンを描いたものなのですが、このワニが本当にかわいい。
とにかくワニの表情が豊かで、どのシーンもセリフが聴こえてきそうなものばかりです。
またワニの服がクラシカルよりの服を着ているのも、ワニのキャラクター性を際立たせるうえで欠かせない要素でしょう。
ワニと言うとそうしても「恐そう」とか「乱暴そう」といったイメージがありますが、ジャケットや蝶ネクタイと言ったアイテムがしっかりと「温厚で真面目」な印象を作り出しています。
単に人と動物を一緒に並べるだけでなく、しっかりと小物や服、表情などでキャラクター性を掘り下げていくというtonoさんの魅力を詰め込んだ代表作になっています。
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「魔女たちの街」
tonoさんの作品に時折出てくるのが「魔女」。
ファンタジーな世界観にぴったりな登場人物なのですが、ここにも独自の世界観が垣間見えます。
tonoさんの絵に出てくる魔女はどれも魔女っぽい服装をしています。
とんがった帽子や大きな箒、いずれも誰もがイメージする魔女らしい服装です。
いずれもファンタジックな雰囲気がよく出ているのですが、その一方で魔女に欠かせない要素が抜け落ちていたりもします。
それは「魔法」が登場しないこと。
描かれているシーンには大鍋で何かを煮込んでいたり、何やら儀式のようなことをしているシーンはありますが魔法を使って何かしているシーンはありません。
魔法を使わないのに魔女と言うとおかしく思われるかもしれませんが、このイラストに描かれている魔女は誰が見ても魔女のはずです。
魔法を使うから魔女ではなく、魔女らしい格好をしているから魔女。
そうした解釈は一人一人のキャラクター性とファッションを紐づけて描くtonoさんらしい世界観にも思えます。
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「黒ヤギの執事」
こちらも人気作品のひとつ。女の子とそれに付きそう黒ヤギの執事を描いたイラストです。
こちらの作品で注目するポイントは「距離感」でしょう。
今までのチャプターでは服装や表情といったポイントを挙げてきましたが、このイラストは服装と表情ともに変化の少ない作品です。
それでもどこか黒ヤギと少女の関係性が見えてくるのがこのイラスト。
表情は乏しいながらも二人の距離感を場面に合わせて変えることで、シーンごとの二人の心理状態を表しています。
また常に同じ方向を向いているのもポイントでしょう。
言葉には出さずとも二人の信頼関係がしっかりと描かれています。
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「華と妖精」
続いては妖精が主人公のこちらのチャプター。
ミニマルな世界観がなんとも可愛いく、それぞれの華に合わせた画面の色味も綺麗な作品です。
また花をモチーフにしている作品だけあって、一つ一つのイラストに季節感が表れています。
妖精の見た目に大きな差はないのですが、一緒に描かれた花によって性格が違って見えるのもおもしろいところ。
普段目にする世界を妖精からの視点にすることで新たな世界観を見せる、絵本のような世界が広がるtonoさんらしい作品と言えるでしょう。
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「森の中へ」
皆さんは「森」と聴いてどんな印象を思い浮かべるでしょうか?
実は森は童話や絵本には欠かせない要素。
『赤ずきん』や『ヘンゼルとグレーテル』がまさにそうなのですが、童話での「森」は恐い事や不思議な出来事が起きる非日常の世界として描かれることが多いです。
このチャプターではそうした少し非日常な世界観がtonoさんらしいやわらかなタッチで描かれています。
いずれも動物と人が描かれている作品ですが、チャプター1の「ワニと少女」などの和やかな雰囲気とは少し違った空気感です。
動物に囲まれながらもどこかひっそりとした雰囲気は、「森」という場所が持つ非日常の世界観が作り出しているのかもしれません。
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「物語の断片」
最期のチャプターではtonoさんが描いてきた様々な種類の作品が収められています。
今まで紹介してきたシリーズものとは違い「短編作品」とも言うべき作品ですが、どれも奥深いストーリーを持った作品ばかり。
ぼんやりと柔らかい色使いで描かれた、人と動物たちがともに過ごす穏やかなシーンは単体でもtonoさんが語りたいストーリーを見事に表現しています。
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まとめ
やはり今作の魅力はtonoさんの描いてきた世界観が一気に味わえるところだと思います。
作品がテーマ別に並べられていることで作品同士のストーリーを想像できるような作りになっていて、そうした本の構成からもtonoさんの強みである「物語性」を打ち出したい狙いが表れている一冊になっていました。
また本の初めに掲載されている連作”Half moon"も非常にクオリティが高く、この本最大のサプライズとも言えるような内容になっていたと思います。
ファンタジックな作風のイラストレーターさんは多いですが、意外と世界観が複雑なことも多く手に取りにくい印象。
その点tonoさんの作品はキャラクターのポップさとファンタジー度のバランスが丁度良く、こうした作品集を買ったことが無い人にもおすすめできる画集に仕上がっていると感じました。