ダイスケリチャード イラスト集『水槽』解説
今回はダイスケリチャードのイラスト集『水槽』をレビューしていきます。
ダイスケリチャードとは?
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PN:ダイスケリチャード
生年月日:1994年4月14日
出身:滋賀県
下着とスガキヤの五目ご飯が付いてくるセットが好きなイラストレーターで、可愛い女の子とパーカーを描くのが得意。
『水槽』の特徴
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今回紹介する画集『水槽』はダイスケリチャード2作目の画集。
表紙に「ダイスケリチャード メイキング&ワークス」と書いてある通り、ここ数年の活動で発表してきた作品とその制作過程が収録されています。
構成について
『水槽』の構成は以下の通りです。
本の構成
①イラスト集”gallery”
②仕事作品メイキング 「三月のパンタシア」
③個人作品メイキング
④ダイスケリチャードQ&A・インタビュー
⑤パーカー・リュックメイキング
今作の特徴はダイスケリチャード自身の作品を収めた「ワークス」の部分とその制作過程を収めた「メイキング」の部分が同じくらいのページ数になっているところ。
メイキングは「お仕事作品」と「個人作品」に分かれており、仕事としての創作と個人での創作の違いなども楽しめるものになっています。
またメイキングというと絵を描く人に向けた内容のように思われがちですが、今作のメイキングは絵を描かない人でも楽しめる内容になっています。
今作のメイキングの主題は技術的な話よりも一枚のイラストを完済させるまでの「アイデアの出し方」。
何もないところに人を魅了する絵を生み出す過程を追っていけるので、何か他のジャンルの創作をしている人はもちろん単純に読み物として読みたい方でも楽しめるのではないでしょうか。
①イラスト集”gallery”
ここでは前作『気化熱』からの8か月間で作られた作品が収められています。
前作との違いはやはり「キャッチ―さ」。
今までも思わず見入ってしまう印象的なイラストを生み出してきたダイスケリチャードさんですが、ここに来てさらに絵のインパクトが強くなった印象です。
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まず初めに感じたのは画面を大きく使う作品が増えたこと。
今までは画面の中に様々な要素が詰め込まれているイラストが多かったのですが、今作ではむしろ「ゆとり」が生れている作品が多い印象です。
あえて背景を描かず女の子だけを描くというスタイルは寂しげな絵になりそうにも思えますが、物が無くなった分女の子に立体感が増し、より生き生きしているように見えます。
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またビビッドな色も積極的に使うようになったのもポイント。
比較的ペールトーンが多く作品の傾向的にも沈んだ色味のものが印象的だったのですが、最近はパキッとした色味の作品が増えています。
ここの色味の変化については好みの問題もあるのですが、色味がシャープになったことでよりキャラクターに目が行くイラストになっていると思います。
おそらく前作に多かった暗めのトーンの部屋に物を敷き詰めたような作品は「世界観」や「物語性」を重視した作品だったのでしょう。
それに比べて今作の作品は「キャラクター性」重視。
背景を単色にして、女の子をよりハッキリとした色で描くことでより主役が映える絵に仕上げています。
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どうしてダイスケリチャードの作品に目が向かってしまうのか?
その質問に対する答えのひとつが「コントラスト」でしょう。
ひとつの作品の中での「目立つところ」と「目立たないところ」の強弱がハッキリしている分、目立つところのインパクトがより強くなっています。
このコントラストがダイスケリチャード作品の破壊力が増した理由だと思います。
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また影の使い方も多様化しました。
特に増えたのが画面を切り裂くように影を作り出す表現。
単に影を描いてコントラストをつくるだけでなく、ダイスケリチャード作品は色味も大胆に変化させているのが特徴です。
このダイナミックな影の投下によって着ている服の色が大きく変化しているので、パーカーなどはまるで意図的に切り替えを入れているようなデザインになっています。
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ただ、もう以前のようなごちゃっとしたイラストはもう描いていないのか?と言われればそんなことはありません。
『気化熱』で象徴的だった物で溢れかえっている絵は今でも健在。
今までは画面いっぱいに物と部屋を描くといったとにかく線数が多いイラストが多かったのですが、今は画面の中に部屋を作ってその中に物を大量に描くイラストの方が増えている印象です。
以前と比べてビビッドな色味が増えて線もシャープになったという違いはありますが、あの独特なだらっとした雰囲気は今でもしっかり残っています。
②仕事作品メイキング 「三月のパンタシア」
人気バンド「三月のパンタシア」が多くのファンから支持を集める理由のひとつがダイスケリチャードによるイラストです。
アルバムジャケットやグッズのみに留まらずMVや公式サイトなど至るところにダイスケ氏のイラストが使われており、「三月のパンタシア」にとってイラストは「顔」のような存在です。
今作はそんな人々を魅了しているジャケットイラストのメイキングを覗くことができます。
『ピンクレモネード』
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三月のパンタシアの代表曲『ピンクレモネード』。
アルバムのジャケットは初回限定版と通常版の二種類あるのですが、どちらもピンク色の液体と輪切りのレモンという曲名から連想されるものをモチーフにしています。
メイキングでは初めのアイデア出しのところから解説されており、発注内容とそれを基に描いたラフが紹介されています。
このラフの時点で形になっているのはかなりざっくりとしたイメージだけ。しかも完成イラストとは随分違った要素も入っています。
興味深いのはラフから完成までのスピード感。工程ごとに日付が記載されているのですが、その早さと日を重ねるごとに上がっていくクオリティにはさすがプロの仕事だと引き込まれました。
あとおもしろかったのは「ストローやレモンを象ったシュノーケルをつけている」というアイデアがミュージシャン側から提示されていたこと。
三月のパンタシア用に描いているジャケットイラストやMVのイラストって普段のダイスケリチャード作品とはちょっと雰囲気が違うんですよね。
イラストを作っていく段階でただ「なんとなくいい感じのものを」と発注するのではなく、独自の世界観やアイデアを提示しているからこそみんながワクワクするMVが出来上がるのでしょう。
『ブルーポップは鳴りやまない』
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次に紹介するのはアルバム『ブルーポップは鳴りやまない』のジャケットイラスト。
おそらくアルバムのジャケットということでかなり力が入っていたのでしょう。こちらのメイキングでは先ほどの『ピンクレモネード』とは少し違った流れで制作が進められています。
最も違うのはラフの数。
基本的に三月のパンタシアからの発注に対しては決め打ちでラフを描いていたそうですが、今回はポーズやアングルを変えて数種類のラフイラストを描いています。
どのラフイラストも目を引くデザインでありながら空気感を模索している跡があり、三月のパンタシアとダイスケリチャードがこのアルバムをどう理解してどのように表現しようとしていたかが見えてくるメイキングになっています。
③個人作品メイキング
ここではダイスケ氏が描いてきた個人作品5つのメイキングが収録されています。
イラストメイキング本では塗り方やエフェクトの入れ方などテクニカルな部分について語られているものが多いですが、今作では「絵を描いている時にどんなことを考えているのか」や「どういう流れでこの絵が完成に至ったのか」について解説するものになっています。
そのためイラストレーターだけでなく、絵を描かない読者でも読み物として楽しむことができるメイキングになっているのが特徴です。
今回は雰囲気が近いものをいくつかセレクトして紹介します。
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通常メイキングでは塗りや加工の部分を重点的に紹介するのですが、今回はラフから線画までの工程を丁寧に紹介しています。
おもしろいのはラフを描く過程で、ダイスケ氏がどんなことを考えながら画作りをしているのかがかなり伝わってきます。
また細かく調整しながら納得できる線画を完成させていく過程がしっかりと収められているので、メイキングを見ることでイラストに対する見方がより深くなると思います。
紹介されている作品のテーマも被らないように配慮されていて、制作過程もテーマによって変わってくるのでその違いも楽しむことが出来ます。
まとめ
前作『気化熱』からそれほど時間が経たない状態で出された今作『水槽』ですが、期間の短さにも関わらず作品の進化を実感できるイラスト集になっていたと思います。
まさに今勢いのあるダイスケリチャードさんですが、今作はその象徴ともいえる作品でした。
また内容も三月のパンタシアのジャケットイラストや個人作品のメイキングなど、ダイスケ氏の作品をより深く楽しむための情報がぎゅっと詰まったものになっていました。
年々様々な媒体での露出が増えてきているダイスケ氏。作品のインパクトはどんどん洗練されており、今までにはなかった展開も増えていきそうな予感です。
これからどんな風に変化していくのか。すでに次回作が楽しみです。